風邪を引いた。
引き始めは咳が出て、喉が少し痛いだけだったから、軽く考えていたのだけれど。そのまま数日過ごしたところで熱が出て、情けなくも寝込んでしまった。
ふたりの融解点
「ぐ……ん〜〜〜むあぁ!!!」
「あ、起きた」
「うぇ、げっほ、はあっ…、沖田隊長!!殺す気ですか!」
ただでさえ鼻が詰まって息が苦しいのに、その上口を塞がれたらそりゃ起きるだろう。つくづくこの人の冗談は笑えないと思う。
「何だィ。心配して来たのに元気そうじゃねぇか」
「心配してきた人がなんで呼吸止めるんです……か」
勢い余って上半身を起こしたけど、やっぱりだめだ、血が足りなくて目眩がして…再び力なく横たわる。
「あらら。病人が無理するからだぜィ」
「誰が無理…させてんすか…」
もう一々ツッコむのもしんどいから余計なこと言わないで欲しい。っていうかこの人はその辺も全部分かってやってんだよな。そうだよな…げんなりして目を閉じると、額が急に冷たくなる。
「ん…?」
「見舞いの品だぜィ」
目を開けると目の前に隊長の顔があって、おぼつかない手で額を触ると冷却シートが貼られていた。
「あ……ありがとう、ございます」
「この機会にゆっくり休みなせぇ」
「…はい」
これだから憎めないんだよなあ。
*
それからどれくらい眠ったんだろう。襖の開く音で目が覚めた。
「あ、悪いな、起こしちゃったか」
「局長…」
「健康が取り柄のがどうした?大丈夫かー?」
「すみません…わざわざ」
仕事が忙しいみたいだし、風邪が移るといけないし、来てくれるなんて思ってなかったから嬉しくて。体を起こそうとしたら片手で制された。
「―ん?これどうしたんだ?」
「あ…沖田隊長が…」
「へ〜総悟にしちゃ気の利くことするなあ…けどこれもう冷たくないだろ」
確かに、既に効力は切れていた。ぺろりと剥がされた後に、手が当てられる。ひんやりして気持ちよくて優しくて、酷くほっとしてしまう。本当は今すぐ抱き付きたいくらいなんだけど、あいにく体が動かない。
「うーん…まだ熱いな…」
「…きょくちょ…」
「ん?どした?」
今なら…何言っても熱のせいにできるかな。制御の弱まった頭の内で、色んな言葉が渦巻く。でも出るのは涙ばっかりで、呼吸に忙しい口から漏れる音は何の意味も成さない。
「うん、大丈夫だから、よしよし」
涙を指ですくって、頭をぽんぽん撫でて、布団から引きずり出した手を握ってくれる。局長の手は氷みたいに冷たくて、こうしていると自分の熱が溶かしてしまいそう。
「局長…」
「うん」
「きょく、ちょー…」
「うん」
空いた方の手で胸の辺りをとんとん叩かれて、だんだん意識が遠退いて。繋いだ手の温度がだんだん等しくなる。
あなたは肝心なところで疎くて、言葉なんかじゃきっと十分伝わらないから。
あなたはとても優しくて、肝心なことは結局何も言ってくれないから。
この思いも、あなたの思いも、繋いだ先から熱にとろけて混ざり合ってしまえばいい
僕なのか、あなたなのか、分からなくなるくらいに
僕と あなたの 融解点まであとすこし
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2005/2/19 background ©創天