珍しく自発的に目が覚めた。目が開けきらないまま手探りでベッドサイドの時計を手に取ると、お早うとは言いにくい時間帯。そろって低血圧で朝が弱いため、2人の朝はいつもこうだ。
それにしても今朝は体が重いなと思い部屋を見渡すと、カーテンの向こう側が少し暗い。耳を済ませると、なるほど窓や屋根を打つ水の音が聞こえてきた。
「―…雨か…」
湿気を含んでしんなりしている自分の髪をかきあげて、寝起きでだいぶ浮腫んでいる瞼を擦る。右隣で横たわっている男を起こさないように、そっと布団から抜け出して、床に脱ぎ散らかしたままの寝巻きを拾い肩に掛け、カーテンを開けると鈍い明かりが目に入った。
rainy late morning
髪をタオルで拭きながら浴室から出て、フローリングをひたひた歩く。そのままキッチンへ向かって冷蔵庫からペットボトルを取り出し、棚から取ったグラスに水を注いで口に含んだ。ボトルを冷蔵庫に戻してテレビを点け、適当にチャンネルを回すとどこも同じようなニュースばかり流れている。
するとテレビの音声に目が覚めたのか、ベッドに沈んでいた高杉がもそもそと動き、霞んだ声を上げる。
「……あー……だりー…」
「あっはは、変な頭」
布の間から覗いた黒髪は湿気と寝癖とでぼさぼさにはねていて、遠くからが笑った。当の高杉は再び力なく枕に埋もれる。
はグラス片手に歩み寄り、ベッドの横にしゃがみ込んだ。左目に掛かった黒髪を手ぐしで梳き、露になっている古傷をそっとなぞると、ぴく、と高杉が顔をしかめる。
「痛む?」
問には答えずに体を少し起こし、からグラスを奪って喉を鳴らした。空になったグラスをに突き返して、またどさっと横になる。
は受け取ったグラスを床に置いて、高杉の髪をいじり出した。高杉の髪は本人の性格とは似ず、細く柔らかくて指通りがいい。だからこそ寝癖が付きやすくもあるのだが…指先でさらさらと遊びながら、は窓の外に目をやった。
外は雲が厚く、雨の飛沫で全体が霞んでいるため、灰色ばかりでほとんど何も見えない。窓に付いた水滴が、いくつも筋を描いて落ちていくのを見ながら、まあ、今日食べるものくらいは何とかなるか、と、さっき見た冷蔵庫の中身を思い出して考える。
遠くをぼんやり見つめているに、ぬっと高杉の片腕が伸びた。まだ乾ききっていない髪を乱暴に掴んで頭ごと引き寄せると、唇が重なる。腕は肩から背中に下り、を中へ引きずり込もうと力が入る。
「…ちょっと、」
「どーせ起きてもする事ねえだろ?」
もっともな事を言われて、は自分から、再びベッドに上がることになる。雨の日は嫌いじゃない。言い訳しないでも一緒にいられるから。
付けっ放しのテレビが、雨は今日いっぱい降り続くでしょうとの気象情報を伝えていた。
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2005/6/12 background ©RainDrop