気持ちよく晴れた秋空の下、江戸の軒並みを、履き慣らした草履を引き摺りながら歩く。通り掛かったのは1階がスナック、2階が万事屋の家。何やら朝から騒がしい。
「万事屋銀ちゃん…へえ。こんなことやってるんだ」
人には色んな生き方があるもんだ、と改めて思う。ついでに、
「…俺とは大違いだ」
とも。
はじまりの日常
俺だって、ちょっと前は左腰にそれなりの刀をぶら提げて、勢いで攘夷戦争なんかに参加したりもしたもんだ。坂田銀時とはその時に会ったことがあって、桂さんとか高杉とかとも、顔見知りではある。でも俺は彼等とは別の班だったから、特に親しいってわけでもなし、ただ合った事がある程度だから、行く末なんて全然知らなかった。桂さんなんかはよく見るけどね。指名手配のチラシで。
攘夷の奴らがまだ沢山残ってるのも知ってるけど、俺は別に国が云々、将軍が云々じゃなくて、ただ天人っつー悪役を相手に思い切り刀を振り回せるから戦争に参加しただけだから、そっちには全く興味がない。まあ結局負けたっつーか裏切られて、満足に刀も持ち歩けねぇつまんねー暮らしになっちゃったんだけどね。それだけじゃない、それ以上に大切なものも沢山失った。俺にだって過去には仲間と呼べる奴らがいたけど、今となっちゃその誰とも会うことはできないわけで。あの戦争に参加して生き残った奴は皆そうだろう。それなりのもん失って今を生きてるんだと思う。悔やむ怨むは人それぞれだけどね。
で、今の俺は男娼っつうオシゴトをしている。わかる?まあ言うなれば夜のお供というか…女で言うところの売春婦ってとこだな、うん。引かないでね。これなら宿も完備だし(狭くて古いけど)払いもいいし、生まれ持っての女顔もあって都合がいいんだわ。江戸では遊郭は禁止されてるって話だけど、奥まった所に行けば地上にだってわんさかあるぜ。役人だってなきゃ困る奴いるし、暗黙の了解なんじゃねーの、とか考えている。
行くアテもなくふら付いているうちに日が傾いてきた。江戸散歩もそろそろ飽きたなあ…何か新しい暇つぶしを見つけないと。仕事柄、昼間が暇なんだ。まあだいたい寝て過ごすんだけど、気分がいい時はこうして散歩に出るのが習慣になっている。さてそろそろ仕事に戻りますか。今日も今日とて性欲を持て余した男どものお相手だ。あ、言っとくけどね、俺普通に女の子も好きよ。「も」ってのはまあ…男も別に嫌いじゃないってことで。
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→ 01 勤務態度:だいたい真面目
2004/9/14 background ©hemitonium.